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ラッスンゴレライによるリズム講座  基礎編

  • 前置き

この前、夜22時ころに新宿駅そばのインド料理屋さんに行ったんですね。店舗ビル7階へ上がるためにエレベータを待っていると、明らかに酔っている20代の女性がドアから出てきて、ふらふら〜としながら「ちょ、ちょ、ちょっとまって…」と千鳥足になっていると、すかさず一緒にいた別の女性が「お姉さん!」と言葉をはさんだんです。これ、明らかに最近テレビで流行っているお笑い芸人8.6秒バズーカーのネタ、ラッスンゴレライの「ちょっとまってちょっとまってお兄さん」からの引用だと分かるもので、「そっか、「ラッスンゴレライ」だけじゃなくて、ツッコミの「ちょっとまってちょっとまってお兄さん」も印象的だよな、なるほど〜」と思いました。


去年流行語大賞を受賞した、日本エレキテル連合の「ダメよ〜ダメダメ!」のように、誰もが日常の様々な場面で使用可能な言葉を極端にカリカチュア(誇張、歪曲)化する事が、ブレイクの一つの秘訣とすれば、この「ちょっとまってお兄さん」も、リズムに乗って誇張される事で多くの人の印象に残りやすく、かつ、言葉の利用シーンの汎用性も高くて、真似されやすいんだと思います。


人を惹きつけたり人の印象に残るための秘訣というのは、強力なキャラクターやネタが肝となり、その要素としては外見(ルックス)や発声の誇張があるでしょう。それらは人類の歴史における様々な儀式や芸能において重要な要素ですが、、といってしまうと、とりとめのない話になってしまいますが、時代をさっと現代に戻しまして、インターネットやモバイルの発達のために、多くの人が同じテレビ番組をみて芸能や娯楽の知識を共有する文化が衰退しつつあるこの時代のブレイクの秘訣は、瞬時に人を引き付ける強烈さにあるといえるでしょう。


日本エレキテル連合は、ネタ内の会話のイントネーションとコスプレを徹底的なまでに誇張していますが、8.6秒バズーカーのネタについても同様に、関西弁がリズムに乗ることによって、イントネーションが誇張されています。そして、2人が意識しているのかは全くわかりませんが、赤いシャツに、黒ネクタイというコスプレは、ドイツの元祖テクノユニット、クラフトワークを彷彿とさせます。彼らがクラフトワークを聞くような音楽好きなのかはわかりませんが、楽器もバックトラックも用いていないのに、彼らのリズムはテクノの様な反復性、持続性があり、過去のあらゆる歌ネタやリズムネタの中でもリズミックだと感じます。更にいうならば、彼らの別のネタのリズムからは、海外の新しいポップスのリズム感覚までもが垣間見る事ができます(こちらは次の機会に *時期未定)。


そもそも、楽器を使用する/しないに関わらず、歌/リズムネタにおける音楽の役割は、ネタの間の挿入歌であったりするなど、リズムが中断する芸が結構多いです。楽器を用いるネタの場合、古くはかしまし娘、現在の大御所ですと横山ホットブラザーズは喋りを挟みますし、楽器やバックトラックを用いない芸人の場合は、レギュラーの「あるある探検隊」、藤崎マーケットの「ラララライ」がありますが、これらも途中に寸劇がはいったりと、リズムは中断されます。そんな中で、身体のみを用い、かつ、2,3分のネタ全体がリズムをキープした「曲」になっている芸は、今までオリエンタルラジオ位しか有名になっていないと思います。オリエンタルラジオがラッスンゴレライをカバーし、8.6秒バズーカーとの共演が多いのも、誰もが分かるように両者のネタとリズム感覚の親和性が高いからですね。それではここから、8.6秒バズーカーのリズム感覚について踏み込んでいきます。聞きながら確認したい方は適当に動画サイトで検索をお願いします。

  • ボケに対するツッコミとリズムのツッコミ

ラッスンゴレライは、ボケとツッコミの反復の形式で成り立っています。これは過去の芸人のリズムネタの中でも今まであまりなかったと思います。オリエンタルラジオ藤崎マーケット、レギュラーのネタは、ボケ、ツッコミのない形式なしで、キメ台詞とリズムの勢いで笑いを取りにいきます。それらに対して、8.6秒バズーカーのこのネタには、漫才のようなボケ、ツッコミの形式が付け加えられています。
ラッスンゴレライという意味不明な言葉に対して、「楽しい南国〜」、「彼女と車で〜、」と、様々な意味(多義性)を含ませながら説明し、「ラッスンゴレライってなんですのん?」「でも、南国いうてもいろいろあるよ?」「彼女おらんし車ないやん」と、ツッコンでいき、ラッスンゴレライの意味に更に迫ろうとすると、途中からスパイダーフラッシュローリングサンダーという別の意味不明な言葉に切り替わり、それからはこちらの言葉に対して再びツッコンでいきます。
ここで、ツッコミがどのタイミングではいっているかみてみると、ボケに対するツッコミが、文字通りリズム上でも4拍子の頭に対して「ツッコン」でいます。そのツッコミにもいくつかのバリエーションがあり、以下4つ取り出してみます(「| |」の間を1拍とし、1文字が8分音符となっています(*のみ例外))。


1.1: |(せつ)|(めい)|(して)|いや|
1.2: |(・・)|(・・)|ちゃう|ちゃう|
1.3: |(・・)|(・・)|(・・)|(・)でも|  *「でも」2文字で8分音符とする
1.4: |(・・)|(・・)|(・)ちょっ|ちょっちょっ|

  • 合いの手・掛け声

まず「1.1」について。このように4拍目に言葉がはさまれるリズムは、日本特有の合いの手、掛け声的なものだといえます。このリズムは、古くから日本の祭事、儀式などでみられ、現在でも野球などのスポーツの応援や、歌手のライブなどでおなじみのものです。特に最近は、AKB48ももいろクローバーZなどのアイドル系やアニソン系のライブなど、舞台の上の少女たちに応援を捧げるオタ芸に顕著です。

  • 裏拍と「お兄さん→ゥオニサン!」の強調

そして、ネタが展開されていくなかで、ツッコミの田中は左手でヘッドホンを片耳に押さえ、右手でスクラッチという典型的なDJのしぐさをして上記「1.4」のリズムに切り替えます。このリズムは「ちょっ」が3拍目の裏から挿入され、裏拍が強調されることでリズミックになっています。
また、その後のツッコミのフレーズにも、反復されていくうちにパターンが変化していきます。ここでは以下3つ を取り出しました。


2.1:|ちょっとー|まってー|ちょっとー|まってー|おに|ーさ|ん・|・・|
2.2:|ちょちょ|・ちょっ|・と|まて|・・|ゥオニ|サン|
2.3:|ちょちょ|・ちょっ|・ちょっ|・ちょっ|・と|まて|ゥオニ|サン!|


はじめのうちは「2.1」のパターンが繰り返されます。これも表拍が「ちょっ」と跳ね、裏拍が伸びることで裏拍が強調されるリズムです。そして、ネタが展開されていく中で、「2.2」「2.3」に変わり、表拍を抜くことによって裏拍を強調してリズミックに展開され、かつ、「お兄さん」が「ゥオニサン!」と誇張されます。動画での観客の反応をみると、この箇所は特にウケていると見受けられます。漫才のようなボケ、ツッコミの形式が繰り返される中で、ツッコミをよりリズミックに誇張して変化させていくことが、ネタの最後まで観客を飽きさせずに笑いを発動させる効果になっていると指摘できそうです。
リズムの観点では、このような裏拍強調のリズムはシンコペーションと呼ばれ、今や日本でも欧米、南米のポップミュージックを通じてあらゆる音楽にまぎれこんでいますが、例えば、ジャマイカ発のスカがそうです。ぱっと思いつく中では、2年前のNHKの人気朝ドラ「あまちゃん」(音楽:大友良英)のOPにもその要素があります。

ここで、ライターの柴那典氏はラッスンゴレライのリズム分析を行い(http://shiba710.hateblo.jp/entry/2015/03/23/073000)、ツッコミの部分の4拍目の「いや」を「シンコペーション」と指摘しています。しかし、この「いや」については極めてシンコペーションと言い難いと私は考えます。シンコペーションとは、表拍(強拍。4拍子では1,3拍目)に対して、リズムが突っ込んで鳴らされ、直後の表拍が「1:鳴らされずに引き伸ばされる」「2:鳴らされずに休拍となる」「3:小さな音で鳴らされる」の3つ*1のいずれかの裏拍が強調される場合をいい、ブラックミュージックや南米音楽などが由来となって、今や日本のポップスにも日常的に用いられます。ですが、「いや」の次の小節の1拍目は、「ちょっと」と強く入っており、シンコペーションとは言えません。この部分に関しては、私が先ほど説明したように、日本的な掛け声のリズムだといえます。表拍に対してツッコんでいるというだけで、シンコペーションの裏拍強調リズムと日本の掛け声のリズムは、同じリズム感覚が元になっているとは言えません。むしろ、柴氏の記事の後半で指摘している裏拍の説明や、私の説明した上記の「1.3」「1.4」「2.2」「2.3」のリズムパターンこそがシンコペーションと呼べるものです。
また、もう一つ補足しておきます。柴氏の上記記事では、「ラッスンゴレライ」を337拍子と指摘しているのですが、こちらについては、説明を単純化していると私は考えます。そもそも氏が7と指摘する「|ラッ|スン|ゴレ|ライ|説|明|して|ね|」は、誰もが数えればわかると思うのですが8です。ただ、全く337拍子ではないかというと、そうではなく、その特徴はあるといえます。それは、私が今まで説明したように、4拍目に「いや」が入ったり、こちらは柴氏も指摘していますが「フー!」と掛け声が入る所にあります。

細かい話だと感じる方も多いかと思いますが、柴氏の説明では「シンコペーション」の指摘箇所をあやまっており、337拍子の指摘も不十分です(実際8なのに7と指摘してしまっている)。リズミックなシンコペーションはツッコミの「いや」にではなく、他の箇所の裏拍強調リズムに、そして、その「いや」は4拍目に「掛け声」として入っており、むしろこちらを337拍子的だと捉えるべきでしょう。柴氏の指摘では、日本的なリズムとシンコペーションを混同してしまい、両者の特徴の違いを見えにくくしてしまっていると私は考えます。今や、日本のポップスにおいて掛け声のリズムとシンコペーションのリズムが両立するのは普通の感覚ですが、本来は別々の文化由来です。どの箇所がどちら由来かが分かると、例えば日本の音楽がどのように海外の音楽から影響を受けてきたかがより鮮明に見えてくると私は思います。
そして、8.6秒バズーカーのネタがリズミックに聞こえることの説明は、シンコペーションと掛け声のリズムのみの指摘ではまだ不十分です。

  • 16分音符のツッコミ

このネタでは、1拍が4分割され、16分音符の細かさで刻まれています。そして、その細かさの中でのリズムのツッコミもあります。それは、出だしの「ラッスンゴレライ」のフレーズから既にあらわれています。具体的には、以下の「3.1」のように捉えられます。上記と異なり、ここでは1文字分が16分音符となり、4文字で1拍となります。


3.1: |ラッスン|ゴーレ「ラ」|イ・・・|(フー!)|


また、以下リンクで桂文枝(ex.新婚さんいらっしゃい!)が彼らと共演しています。

https://www.youtube.com/watch?v=B_zH7rvPZqk


なのですが、師匠のここのリズムの取り方が少し違うことに気が付かないでしょうか。
実際には以下のようになっています。


3.2: |ラッスン|ゴーレー|「ラ」イ・・|(フー!)|


3.1と3.2を比較すると「ラ」の位置が違いますよね。師匠はこの「ラ」を、コンビでやっているような2拍目の4つめではなく、3拍目の頭に入れています。読んでいる方も、実際にやってみたら感じられると思うのですが、「3.2」の取り方ではリズムのドライブ感が少し失われる感じはしないでしょうか。これは、「3.2」の場合は、全てのアクセントが4分音符単位で単調にとられているのに対し、「3.1」の場合は、3拍目の表拍に対して16分音符分、突っ込んで早く入る効果があるためです。これについても、アクセントの位置が表拍(強拍)からずらされて16分音符分早くツッコんでおり、シンコペーションといえます。これは、ゲロッパ!で有名なジェームズ・ブラウンのファンクや南米のラテン音楽を由来として、現代の欧米のポップスや日本のポップスでもなじみのあるリズムです。ただ、元々日本になかったリズムなので、欧米の音楽の影響が現代より少ない時代を生きてきた世代にとっては、とりにくいリズムなのでしょう。

  • まとめ

ここまで、所謂リズムの「ツッコミ」の観点から彼らのネタのリズミックさを説明しましたが、私はまだ彼らのグルーヴ感覚を指摘しきれていなく、今までの説明は基礎編となります。これらのリズムは比較的新しいとはいえ、オリエンタルラジオには該当しますし、日本のポップスにおいても今や特に珍しいリズムではありません。私は、彼らの別のネタから、海外の新しいポップスにあらわれているリズム感覚を読み取ります。キーワードは「伸縮」です。ダイジェストにまとめると、これは元々人間の身体に備わっている感覚であるのですが、音楽の体系化、機械化、産業化によってポピュラーミュージックの内では抑圧され、ここ最近になって、海外のポップス(ex. Arca, FKA Twigs)にみられるようになった感覚です。次回の機会があれば発展編として説明したいと思います(時期未定)。また、この長文をここまで読まれた方はきっと音楽やリズムに興味のある方かと思われますが、本ブログの他のエントリーで、これらのリズムに関連のあるNew Chapterや今ジャズと呼ばれる近年の新しいポップなジャズにみられるリズムの解説を行っており参考になると思うので、お時間があれば、覗いてみてください。
MadlibのトラックからNew Chapter系/今ジャズ系のリズムを解説する試み http://d.hatena.ne.jp/Blackstone/20141001
Arca 融解するビート/現代のリズムの揺らぎ http://d.hatena.ne.jp/Blackstone/20141214