映画 『Y/OUR MUSIC』  タイの都市と地方の音楽から浮かび上がる世界 (Asian Meeting Festival 2016 2/7 )

トムヤムクン、ガパオ、カオマンガイ・・・、料理屋さんも多数あり、最近ではコンビニの惣菜になったり、スナック菓子のフレイバーにもなっているタイ料理は、現在日本で割と一般的になっていると思います。私自身も時々タイ料理屋さんにいったり、たまたま近くに売っているので昼にガパオ風のお弁当をよく食べています。しかし、タイについて食べ物以外に目をむけてみると、あまり、というか正直ほとんど何も知りません。日本から近く、物価も安い人気観光地ではありますが、それでもタイについてあまり知らない方は私に限らず結構な数いるのではないでしょうか。
そんな中で、とあるきっかけで、タイの音楽について描かれた映画を観て、全くの未知の世界だったタイ音楽の、そして、タイの文化の多様さを垣間みることができました。
私が今まで観てきた音楽ドキュメンタリー作品の中でも屈指の面白さです。
 
 
2/5~2/14の間に日本で開催されたAsian Meeting Festival 2016(http://asianmusic-network.com/about/)の企画の一環で上映された『Y/OUR MUSIC』は、タイの都市(首都バンコク)と地方(タイ東北部のイサーン地方)で音楽に関わる10組ほどの人々を取材したドキュメンタリー映画です。
 
○都市の音楽
バンコクでは、インディペンデントに活動しているレーベル、バンド、楽器職人、商店街でヴァイオリンを弾くおじいちゃんなどか出演し、それぞれがインタビューに答えたり、実際に演奏する映像が流れます。
 
例えば・・・。
ラジオから流れるクラシック音楽をきいて、サックスの音色に惹かれたおじさん。しかし首都バンコクでもサックスは中々手に入らないため、メガネ職人としてのスキルを活かして竹を使って独自にサックスの作成を開始することに一号機は音がまともに鳴らず、一時は完全に作成を断念してしまいます。しかし、数年放置し竹が乾くと、楽器が響くことに気が付いたことがきっかけで、ついに完成させ量産へ。本編のラストでおじさん本人がこの竹サックスを吹くのですが、(正直そんなに期待してなかったんですが)、その響きは、通常の金属のサックスよりあたたかみとふくよかさがあり、タイに行ったら買ってみたい!と思うくらいのものでした。
 
または、ファッション感覚でかっこいいからという理由で、全く楽器は弾けないのにバンドを組み、いきなり野外ステージに挑んだ若者の男女。バンド名はHappy Land。当然、スキルはないものの、音数少ないサイケ/パンクのような感じで、やたら舞台映えしており、結構良い感じでした。楽器演奏素人によるバンドといえば、The ShaggsやNO. NEW YORK 、または、金魚草(完全に脱線しますが、千葉の高校生が一時的に組んだこのバンドには、一種のミラクルが起こっています→ https://www.youtube.com/watch?v=y9tHXlHPXtM)  のようなバンドを連想しました。楽器が弾けなくてもやりたいように堂々と演奏するヘタウマの系譜の人たちです。
 
他にも、欧米のフォーク系のポップスが好きで、自分でもそういう音楽を作ってみたいとインディペンデントレーベルを運営している人など、紹介しきれませんが、様々な方が出演されています。
 
こういった都市の市井の人々だったりインディペンデントな活動をしている人々の音楽を通してみえてくるのは、20世紀において、あらゆる世界が西洋文化の影響を逃れられなかったように、やはりタイにおいても、西洋音楽が文化横断し、人々の生活に浸透している、ということです。さらに、タイでは音楽産業や音楽教育がそれほど発達していないゆえに、ノウハウがあまりない状態で西洋音楽を独自に解釈した音楽が多数うまれているということ。このようなインディペンデントな音楽はタイに限らず世界中のアンダーグラウンドにあるでしょうが、そういった音楽は、いくらインターネットが発達してもきっかけがない限り外国から見たら存在を認知することが難しいですし、このような記録はとても貴重です。
 
○地方の音楽
一方、地方の取材では、タイの伝統音楽や民謡(モーラムと呼ばれます)を演奏する人々が登場します。
 
例えば・・・。
エレクトリックピン奏者のおじさん(というか、おっさん)。ピンは、私のみた感じの印象だと、日本でいう三味線のような弦楽器です。
そのおじさんが、屋外で暑いのか上裸になってピンを弾きながら、若者に打楽器を指導するシーンがあります。演奏が盛り上がるうちに、ピンを弾くのをやめ、塗装のスプレー缶を振り回してリズムを刻んで一人で勝手に盛り上がり、かと思えば、演奏中なのに、そのスプレー缶でピンの楽器本体に塗装を始めたりする自由さには、笑ってしまいました。
 
ほかには、盲目の笙(ケーン)吹きだったり、農村のステージで民謡を歌って踊るおばあちゃんがでてきたりします。
彼/彼女を通して語られるのは、、地方の過疎化による伝統音楽を継承する若者の不足だったり、モーラム(地方の貧しい人々の民謡音楽)への都市からの差別についてです。このような地方の問題、伝統の継承の問題は、あらゆる世界の国々においても起こっていることですが、やはりタイにおいても同様のようです。
ただしこの件については悲観的になって終ったわけではありませんでした。映画のラストの方で、真昼間の田舎で上裸で演奏していたはずのエレクトリックピン奏者おじさんや、盲目の笙吹きサングラスおじさんが、何故かバンコクのライブハウス、またはクラブといえるようなスペースで、ドラム、ベースをバックにいれて、ビートを強調したモーラムの演奏を行い、若者がそれに合わせて踊っている映像が映し出されます。
これについては、上映後に監督の解説があって具体的に分かったのですが、ここ5年ほどで、伝統音楽への再評価がなされ、バンコクにおいて、モーラムとロックのエレクトロニクス系の音楽の融合の試みがなされるようになったとのことで、このラストシーンではその取り組みの一環が撮影されたようです。
 
○最後に
私はこの映画を観て、その国の文化の多様さとは、アンダーグラウンド(いいかえると、人々の生活の範囲のそれほど広くないコミュニティ。いわゆる「アングラ」というジャンルの事ではないことに注意)で活動する市井(一般)の人々の多様さによってあらわれるということを、強く思いました。それらは大手メディアがとりあげるメジャーな文化産業の表面をみるだけでは決して分からないことです。この映画を通して、タイの売れ線の音楽が分かるということはありませんが、映画に登場する市井の人々の音楽からは、タイにはもっとほかにも、ヒットチャートにのるようなポップスや歌謡やロックやアイドル音楽もあれば、インディーズやノイズの様なバンドも一杯あるのだろうし、または、様々な伝統音楽もあるのだろうと想像がふくらみました。いや、想像で終わることなく、タイの外に住む私たちが知らないだけで、それらは独自の形で確実に存在するのでしょう。
 
都市と地方の市井の人々の間を行き交いながらこの映画の中で響きゆく音楽は、タイの人々の生活と社会だけではなく、現代の世界の現状すらもほのかに浮かび立たせているようにきこえます。そこから垣間見ることのできる西洋文化と現地文化の相互関係は、グローバルに捉えれば日本を含めて世界中で同じように起こっている事象であり、ローカルに捉えれば、その自国文化と他国文化の融合/衝突/葛藤は、各国で独自に違っていることです。
 
私がこの映画をみて見逃してはならないと思ったのは、この映画の舞台のタイだけでなく、他のアジアの国々、そしてアジアに限らず世界中には、自分が知らない所で、多様な音楽と人々の生活があるということです。これは、いってみれば恥ずかしいほど当たり前すぎる事ですが、しかし、ある一国の日常に住み、せいぜい広くて欧(南)米の音楽をきくだけでは、中々意識しにくい事だと思います。
 
自分たち(OUR)のまわりの音楽の外には、別の音楽があり、それらをあなたたち(YOUR)の音楽と意識する事によって文化の交流が生まれるということ。
 
『Y/OUR MUSIC』。
 
ある一国(日本)に暮らす私たちが、その生活の中できいたり演奏したりする音楽は、世界の関係の網と過去・現在・未来の時空間において、どこからやってきたのか?、そして、これからどこへ向かおうとしているのか?ということを問い直すきっかけにもなるように、この映画を多くの人に観ていただけたらと思います。
 
 
補記1:
ここ一年で私がみた音楽ドキュメンタリーだと、ミャンマー音楽の現地録音の密着取材をした「BeautyofTraditionミャンマー民族音楽への旅」とキューバ本国とニューヨークで活動するキューバのジャズミュージシャンを密着取材したキューバップ『Cu-Bop』の2本があります。両者とも音楽文化の記録、保存作品として素晴らしいですが、本編内に起きる出来事の説明があまりに不親切で、映像作品制作の素人感はぬぐいきれないのに対して、この映画は、取材や構成など、作りがしっかりしており、本文のようにとても面白いので、規模の大小を問わず、上映の機会がもっとあれば良いと思います。
 
補記2:
上映後のトークで、大友良英さんも仰っていたように録音が素晴らしく、楽器の響きを余すところなく記録しているのに加え、インタビュー中にきこえる生活音、野外の風のせせらぎ、虫の鳴き声までもが気持ちが良かったです。
 
補記3:
この文章の大半は、上映後の帰宅途中にスマホにばーっと書いて、そのまま放置していたものです。久しぶりにたまたま読み直したら、ブログにアップする価値ありと判断し、2か月遅れとなっております。