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静寂の果てに

2014/11/21 (Fri)  【静寂の果てに Ambient Version】 灰野敬二 ナスノミツル 一楽儀光 @秋葉原Goodman
静寂な暗闇の空間  3人の手元から光の花がほのかに咲いては消えていく  光は身体にやさしくふれる  照らし続ける振動は対象を揺らして粒子に溶かしていく  粒子が拡散する やがて密集し雲となっては消えていく  光が暗闇の雲の間を通り抜けて陰影をつくっては変化していく 雲はしだいに膨張し大きな唸りとなる  地面と身体を轟かせ天井との間でうごめいていく  四方から飛びかう粒子が身体全体に透過する  それは私を包み込みこんで飲み込むのではなく私自身が粒子のなかに溶けこみながらともに移動しているかのようである  一筋の光のメロディが差し込まれる   うごめく雲はいつの間にか消失し静寂をむかえる   そのとき空間は透明となっていた


『静寂』と名付けられた、従来のブルース、ロックンロールをくつがえすようなバンドの、日本のアンダーグラウンド音楽シーンを代表する3人のメンバーは、一楽がドラマーとしてのキャリアをこのバンドで終えたライブから、まもなく2年という月日が経とうとした秋の終わりに、【静寂の果てに Ambient Version】と題して、ラストライブと同じ空間で再会することとなった。一楽がドラムを引退し彼独自のサウンドシステムを手にするようになったことから、ギター、ベース、ドラムによるバンドサウンドを演奏することが難しくなった代わりに、今回は、強力なリズムを音の持続へ、音の叫びと歪みを音の響きの拡散へと転換することとなった。そのサウンドは、過去の『静寂』のサウンドとは一聴異なるものではあるが、灰野のキャリア初期からの活動、ナスノのアンビエントプロジェクトの離場有浮や先月itunesでリリースされた『Bassmanmachine』、一楽が大友良英Sachiko Mらと活動するI.S.Oなど、彼らが他の活動で志向しているサウンドを知っていればなんら不自然な響きではない。しかし、それでも想像していた以上の演奏であった。
ノイズやドローンのようなサウンドのライブでは、機材による音の増幅、拡散だけではなく、PAのスピーカーとそこから発せられる音が会場の空間内で反響することによって、音は複雑に混じりあい、うねりとなる事が多い。それは演奏者にもよるだろうが、ある程度は意図している部分もあれば、演奏者が制御不可能な効果も生じる事もあるだろう。それに、その時ステージで聞こえるサウンドと、客席で聞こえるサウンドが異なる事もあるはずだ。そして、灰野敬二の場合は、共演者や彼の使用楽器や会場を問わず、彼の発する音量はいくら大きくとも、一聴ノイズに聞こえようとも、そのサウンドは階調を豊かに描いて変化し、ステージ前のスピーカーからしか音が鳴らされていないとはにわかには信じられないほどだ。その中でも今回の演奏は今までも聴いたことがないほど、光が乱反射するかのように、音が左右の間の、天井と床の間の、前面から背後の間の、3次元の中を移動していた。それは今回の3人の演奏の化学反応の結果ともいえるが、そのほかにも通常のライブハウスでの演奏とは異なり、今回は会場の後方の左右にスピーカーを配置していることによる効果も大きかったと感じている(約2時間通しの今回の演奏で、私が会場に着いたのは開演から30分ほど経った暗闇だったためこのことには終演後に気が付いた。演奏中はその音のうごめきにただただ驚くばかりであった)。前方のステージから発せられる音を演奏者が届けて後方の客席の人間が聞く、という従来のコンサートの構図を飛び越えるような演奏を灰野は常に行っていると感じるが、今回は後方にスピーカーが置かれることによって、その効果はより直接的に増強され、そのサウンドはより豊かに複雑に絡まりあっていた。また、一楽が彼のサウンドシステムで多彩に奏でる音響は、彼がドラびでお名義で演奏するスカムさとはうって変わって繊細であり、そのサウンドを彼の手がつまみを調整することで直接左右に移動させている事の効果も大きかっただろう。そして、ナスノのサウンドはエフェクターを駆使することでエレクトリックベースという楽器を超越し、空間を轟かせる。彼らがまた再び集まって演奏するのはそう遠くはないだろうと期待している。