メモ/ランダム

memorandum || (memory / random)

ホン・サンス『次の朝は他人』

今は地方の学校で映画を教えている、そこそこ名が知られているらしい映画監督が、先輩に会いにソウルに行く。そして、3夜連続飲みに行き、たまたま誰かと出会う。その中で、多少のメロドラマがあるだけだ。

 

と、ストーリーのみを取り出すと基本的にはなんともない話なのだ。しかし、そのなんともないシーンですら何故か妙に面白く、そして、所々変なことが起こることで、さらに面白いのである。

 

3日の間の1日1日をそれぞれ取り出すと、あることを除けば、とりとめのないことしか起こらない。

 

しかし、その1日1日をつながりでみると、間違いなく3夜連続で飲んだようでもあるのだが、それと同時に、この人たちは実は3夜連続で飲んでいないのではないか…、と不安にもなってくるのだ。

 

そして、どちらかというと控えめな性格にみえる主人公の映画監督は、唐突に、どうしちゃったの?!、という行為を何度かしでかし、あっけにとられる(というか笑えるのだ)。しかし、その後すぐに反省し、そして、翌日にはそのことを覚えていなさそうなのである笑。そうだ、この映画のタイトルは…。

 

突然の衝動と、やらかしてしまった後の自制と、健忘がすべて刹那に消えてしまう。

 

ある意味、ときめきメモリアル(古い!)のような恋愛シミュレーションゲームを1日ごとにリセットしているような感覚もある(女性と出会いました、さあどうする?みたいなことが繰り返されるのだ)といえるのだが、質感としては、昔のヨーロッパ映画なのだ。

 

たとえば、ルイス・ブニュエルの「皆殺しの天使」のような感覚と、あの映画のループ構造を思い出したが、ブニュエルのような不条理やブラックさはなく、ゆるやかである。

 

シュール、コメディ、メロドラマ、といった要素はあるとはいえるが、これら全てのカテゴライズを避けるように作られているようにも感じて、ふわふわしている。

 

幾度とある飲み会のシーンでは、特に食べ物は美味しそうに描かれなく、基本的に飲みに徹しているのだが、飲み会、いいな、zoom飲みより、やっぱり、会って飲みたいな、と感じさせる、飲みの楽しさと退屈さと訳のわからなさが同時に映されている。

 

奇妙な健忘は、酒でやらかし、忘れてしまったからだ。とは単純にいえなく、昼間にシラフで外を歩いている時でさえ、謎な邂逅が起こり、どこかおかしい。

外に出てぶらぶらし、酒とたばこをのみたくなる映画。

 

------------------------------------------------------

と、ホン・サンスの映画はみたことなかったので、Amazonプライムでなんとなく短めのを観てみると異様に面白かったのであった。


しかし調べたら、よりによって菊地さんがトークショーでこの映画について語っていて、ああ、所々同じことを考えてはいるが、はるかに流石だ…


https://eiga.com/news/20121122/15/


で、この映画を面白いと思ったのは間違いないのだが、私は、例えそれほど内容自体が面白くはなくても、構造に特異性をみつけると(すなわち構造が面白いと)感想を書きたくなるタチ(今までのエントリーの半分位はそう)だからこう書いてしまったのもあり、よかったからといってなんでも書きやすいわけでもなかったりする。

最近観た映画だと、「ハッピーアワー」と「光のノスタルジア」はとても大切な映画で、特に「光のノスタルジア」については数年前に映画館に行き、珍しいことにDVDも買ったのだが、なぜか今Amazonプライムで観れるんですね。加入してる方には「光のノスタルジア」をおすすめします!